人間は無意識に多数派になりたがったり、現状維持したくなる生き物である。
タバコのポイ捨てを減らしたナッジの事例
全ての人が、合理的に無駄にならないような行動をすれば、世の中全てが合理的に動くように思われがちですが、実際にそうなると営利目的のビジネスは不要となり、経済は破綻してしまいます。
人間は時に非合理な行動をすることがあり、感情や自分の経験などに基づいた思い込みなどに流される傾向もあり、このことが経済活動を活発にする要因となっています。
ナッジは非合理な行動をすることに着目した取り組みとして、数々の事例が紹介されています。
近年は健康問題や環境問題に取り組む国や自治体も多く、歩きタバコやタバコのポイ捨ては大きな社会問題となっています。
タバコのポイ捨てをどのように減らしたらよいか思案していた英国のHubbubというNPO団体は、その対策として、タバコの吸い殻を使って投票するアンケートボックスを考案しました。
アンケートの内容は誰もが知っているような内容で、娯楽的な要素も強いものを選んでいきました。
例えば「世界で一番のゴルフプレイヤーは?」とか、「ジェームスボンド役は誰がNo.1か?」など、ロンドンの人が興味を持ちそうなテーマを選びました。
他にも政治に興味を持つ人には「英国の次の首相は?」「アメリカの歴代大統領で最も優れているのは?」などを選ぶなど、多くの人が興味を持つように工夫をしました。
結果としてタバコのポイ捨ての数は減少し、このユニークなアイデアはナッジの成功事例として多くのメディアで紹介されることになります。
タバコのポイ捨てを、劇的に減らした「看板」。その斬新すぎる仕掛けとは?/TABI LABO
督促状で実験したナッジの事例
アメリカ人の経済学者と法学者によってナッジ理論は世界中に広まるようになり、日本でもこの理論を経済的な取組に活かす企業が増えています。
特にヨーロッパ各国では、ナッジ理論を多くの企業や行政が取り入れて様々な成果を生み出しています。
日本と同じ島国で国として長い歴史を誇るイギリスですが、経済の発展が停滞していた時期に、税金の滞納者が大幅に増加する問題に直面していました。
税金を納めるよう督促状を送りましたが大きな効果は見られず、様々な対策が議論されましたが、ここでナッジ理論を活用した督促文を取り入れて滞納者を減少させることに成功しました。
まず実験として、通常の督促文と4つの表現の異なる督促文を作成し、それぞれに対する結果を検証しています。
・通常文 「10人中9人が税金を期限内に支払っています。」
・改① 「税金を支払うことは、国民健康保険や道路、学校など、必須の社会的サービスから便益を受けることを意味します。」
・改② 「税金を支払わないと、国民が国民健康保険や道路、学校などの必須の社会的サービスを失うことを意味します。」
・改③ 「イギリスでは、10人中9人が税金を期限内に支払っています。」
・改④ 「イギリスでは、10人中9人は税金を期限に支払っています。あなたは、まだ納税していないので、非常に少数派の人になります。」
このように全部で5種類の督促文を実験した結果、改④の督促文が一番納税率が高くなりました。
改①②は、行政のサービスを受けられないことに着目していますが、具体性に乏しく納税意欲を高める効果は得られませんでした。
改④の納税率が一番高くなった理由は、支払っていない人が少数であることを強調していることがポイントです。
つまり「自分が多数派ではない=一般の人と違う」というイメージがあり、他人と違うことに敏感な人が納税することをプッシュする結果となりました。
変化を避けることを活用したナッジの事例
銀行の金利が低くなり、銀行にお金を預ける人が少なくなったと昨今は言われるようになりました。
日本人はその昔は貯蓄の多い国と言われていましたが、収入格差の広がりが大きくなった現在は、世界で50位前後と決して高くない状況にあります。
しかし貯蓄がないまま高齢になり働くことができなくなると、老後の生活は決して明るいものにはならないでしょう。
海外でも国民に貯蓄を促す取り組みが試されていますが、アメリカで考案されたSMarTというプログラムは、ナッジを活用した成功事例として注目されています。
人間は近い将来のことには意識を持っていても、老後などの遠い将来までを考えて行動することをあまり得意としていません。
「人間は目先のことを優先して行動する」といった現象を、行動経済学では「現在バイアス」と呼んでいます。
SMarTプログラムでは、遠い将来を考えるのが苦手な人のため、将来に昇給する給与の一部をデフォルトとして、自動的に年金貯蓄にするという仕組みになっています。
長年働いてキャリアを積み重ねていけば昇給を毎年していくため、年々貯蓄額が上がることになり、いつの間にか貯蓄が高額になっていくのです。
もちろん途中でプログラムを止めることも可能にしているため、強制ではないことから反発する人も少なく、強制的なことがなければ環境を変えない、という人が持つ現状維持バイアスの特性もあり、継続する人が大半で大きな成果を収めました。
これも人の行動を、ナッジ理論によって良い結果を生む方向性を示した成功事例と言えるでしょう。