時として判断を誤らせてしまう、人間の執着や愛着という心理

保有効果とは

家の整理整頓を上手にするためには断捨離がきちんとできることが重要だ、

と専門家がテレビなどでも伝えています。
必要なものと不要なものを分けて無駄を省くのは簡単そうですが、

人には持っているものを所有し続けたい、という心理が基本的に働いています。

心理学、行動経済学で使われている保有効果も、この人の所有しているものに対する執着を表す用語の一つです。

保有効果は、自分が持っているものに実際の価値以上のものを感じてしまい、

手放すことができない心理状態・現象を言います。
人にこの保有効果が表れてしまう原因は、主に3つあるとされています。

 

 

断捨離が上手くいかない人は多い

 

 
一つは自分の持ち物に対し、愛着を強く感じることです。
長年愛用しているペンや手帳などが古くなって汚れていたり破れていても、

ずっと使っている人を見かけることがあります。
古い車を何年も載っているなども、保有効果の一つでしょう。

二つ目は自分が高く感じているものは、他人も同じように価値を感じていると考えることです。
例えば長く使用している腕時計を、中古品買取店に売ろうと思ったときに、

自分にとっては、思い出や愛着が強く高い金額を想像しますが、

実際には古くキズが多かったりすると、はるかに安い金額の査定になります。
このように「自分が高い価値を見出すものは他人も同じ考えだ」と感じてしまうのです。
三つめは、「手に入れること以上に喪失すること」を重要と感じることです。
保有効果が起こる理由の中で最も多いのがこの心理で、一度失ったものは二度と手に入らないと考え、

失うことを手に入れることよりも重要なことに自ら位置付けてしまうことになります。
失うことの損失を大きく感じる傾向は、プロスペクト理論として経済学では広く知られています。

 

 

https://www.kcsf.co.jp/marketing/prospect.html

プロスペクト理論と損失回避性|経済行動の心理学/かんでんCSフォーラム

 

 

保有効果の著者、有名人について

自らが持っているものに対する気持ちが強くなり、必要以上の価値を見出したり、

手放すことに抵抗を感じる心理的な状況を保有効果と呼んでいます。
行動経済学の中では数多くの実験や研究がされ、マーケティングに欠かせない理論として活用されています。
保有効果は、アメリカの経済学者リチャード・セイラーによって1970年代に提唱されています。

 

 

マーケティングと人間の心理は大きく関係している

 

 

リチャード・セイラーは1945年にアメリカ ニュージャジー州で生まれ、

シカゴ大学の教授として後進の指導に当たりながら、行動経済学の専門家として数々の実績を上げています。
国際的な業績も十分で、第一人者のダニエル・カーネマンとともに共同研究を重ね、

多くの理論を提唱しています。
その実績が評価され、2017年にノーベル経済学賞を受賞しています。
行動経済学を一般に知らしめるために行動科学に関する啓蒙書を数多く執筆し、

幅広い地域・国で評価されています。

「準合理的経済学」「セイラー教授の行動経済学入門」「行動経済学の逆襲」など、

日本でも注目された著書は多く、日本の経済学の発展にも深く関わっています。
従来からある経済学では、人は合理的で無感情な存在として考えられていることに問題意識を持ち、

感情により合理的ではない行動をする行動経済学の考えを長く提唱し続けてきました。
著書行動経済学の逆襲では、人間は非合理的な存在で経済学で論じられてきた合理的選択理論とは異なり、

矛盾した行動をしばしばとることを挙げています。
今も健在で、行動経済学の権威として今後も活躍することでしょう。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK257KW0V21C20A2000000/

セイラー教授 投資家はなぜ不合理な行動を取るか/日本経済新聞

 

 

有名な事例

人は現在の環境や状態を、大きなメリットがあると確実視されないと、

変えたくないという現状維持バイアスが働きますが、保有効果はこの心理を生み出す大きな要因の一つです。
保有効果により現状維持バイアスが働き、合理的な判断ができなくなる、このような事例は数多く存在します。
保有効果を表す代表的な実験の事例として、マグカップの実験があります。

 

 

面白い実験結果がある

 

 
ある大学で、大学のロゴ入りマグカップを一つのグループには「いくらなら売るか?」と質問し、

もう一つのグループには「いくらなら買うか?」と質問を変えて聞きました。

すると売る金額を聞いたグループは平均約7ドルと答えたのに対し、

買う金額を聞いたグループは約3ドルと答えました。
売るときは7ドルだが買うときは3ドルと2倍以上価値に違いが生まれ、保有効果は実証される結果となりました。
ビジネスや日常生活のシーンにも、保有効果は至るところに現れます。
飲料品や健康食品などで無料サンプルを提供するキャンペーンはよく見かけますが、

サンプルによって効果を感じたりおいしいと思った人は「利用を辞める」、

「手放す」ことに抵抗を感じ、購入する人が多いというデータもあります。

衣料品のお店では試着ができる場所を準備していますが、

一度試着をすると所有した感覚が人に起こり購買率がアップするというデータが元になっていると言われています。
長く愛用しているブランド品、例えば高級腕時計を

新しくて高価な別のブランドの腕時計と交換するように持ち掛けたとします。
合理的に考えれば、新しい別ブランドの品の方が一般的な価値は高くなりますが、

保有効果が働いていると愛用品の方に高い価値を感じ手放さないという状況も、わかりやすい事例となります。