貯金したくてもできない、夏休みの宿題をなかなか終わらせられない、その理由とは?
現在思考バイアスとは
ビジネス・経済の世界では専門用語が多く存在し、業界人は当たり前のように使っていますが、
一般の人にはよくわからないと感じる用語がたくさん存在します。
バイアスを含む用語もたくさんあり、現状維持バイアスとともによく使われている用語に
現在思考バイアスという言葉があります。
現在思考バイアスとは、簡単に言うと目先に確実に得られる利益があると、
より大きくなる可能性がある未来の利益を選ばずに、現在の利益を選ぶ人の心理のことを言います。
例えば「今10万円が手に入る」、「1年後に15万円が手に入る」の
どちらかを選ぶことができるとしたらどちらを選ぶでしょうか。
金額的には1年後の15万円の方が5万円も多いのですが、多くの人は今の10万円を選びます。
これは人間心理として1年後という遠い未来に確実に15万円がもらえるということがイメージできず、
確実にもらうことができる目先の10万円を選んでしまうのです。
過去に唱えられていた経済学の考えでは、人は合理的に有益なものを選ぶと考えられていましたが、
人間の行動は必ずしも合理的な判断をするとは限らない、
という行動経済学で研究された法則があることがわかっています。
今すぐの10万円と1年後の15万円でも、合理性だけで考えれば1年後の15万円の方を選びますが、
1年後に100%もらえる保証はないという心理的なバイアスがかかり、多くの人が今の10万円を選んでしまうのです。
未来にどんなに大きな喜びがあったとしても、そこに素直に喜びを感じることはなかなか想像し難いものです。
しかしすぐ手に入れることのできる喜びは想像ではなく現実なので、素直に行動をします。
これらの行動心理を、行動経済学では現在思考バイアスと呼び、世界の行動経済学者が研究・実証を重ねています。
経済学から行動経済学へとビジネスの考え方が変わり、
現代の社会ではマーケティングの分野で行動経済学の考えが多く取り入れられるようになっています。
現在志向バイアス|経済行動の心理学/かんでんCSフォーラム
現在思考バイアスの著者、有名人について
行動経済学では、人の心理的な行動や考えが多くの学者によって研究されています。
現在思考バイアスも、行動経済学で研究・実証されている人の行動パターンを表したものです。
現在思考バイアスを含む、多くの人の勧化や行動を研究しているのが行動経済学ですが、
アメリカの経済学者ダニエル・カーネマンは、その第一人者として広く知られています。
今と未来を比べた時に今を重要と感じ未来を後回しにしてしまう、
つまり今を過大に評価して未来を過少に評価するのが現在思考バイアスです。
ダニエル・カーネマンは、研究を重ねる中で時間選好率が未来に向かっていくに従い小さくなる、
という定義を提唱しています。
ダニエル・カーネマンは、イスラエル出身のユダヤ人でアメリカで心理学者、
行動経済学者として活躍し、数多くの理論を研究・提唱した行動経済学の権威です。
1950年代にイスラエルのエルサレムで心理学を学んだ後、アメリカに移住し、
カリフォルニア大学バークレー校で、心理学の博士号を取得し教鞭を取る傍ら、
心理学・行動経済学の研究を進めます。
ダニエル・カーネマンの名前を有名にしたのは、
1970年代後半にエイモス・トベルスキーとともに提唱したプロスペクト理論です。
プロスペクト理論とは、不確実な状況下における人の意思決定のモデルをまとめたもので、
人は必ずしも合理的に正しいと思われる行動をするとは限らないという、
行動経済学の根幹を形成する理論として現在も活用される理論です。
現在思考バイアスも、このプロスペクト理論の中で提唱されているモデルになり、
マーケティングにおいて必要不可欠な行動心理の一つです。
プロスペクト理論以外にも、人の快感や苦難の記憶はピーク時と
終了時の快感・苦難の度合いによって決まるというピーク・エンドの法則も、ビジネスの分野で活用されています。
人が様々な物事の判断をするときに自らの経験に基づき判断をするが、そこには一定の偏りがあり、
必ずしも正しい判断ができないことを検証したヒューリスティクスとバイアスも提唱しています。
このような多くの研究により経済学の発展に貢献したことが認められ、
2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
ピーク・エンドの法則/日本の人事部
有名な事例
未来に予想される大きな利益よりも、小さくても確実な目先の利益を優先してしまう人間の心理的な行動を、
現在思考バイアスと呼んでいます。
未来に起こることに対しては不確実性を感じ、面前の出来事の確実性を人は選び、
必ずしも合理的に行動するわけではないという行動経済学の基本となる考え方の一つです。
現在思考バイアスを、より分かりやすく説明する有名な事例として、マシュマロによる実験があります。
マシュマロを一人1個ずつ置いている部屋に、複数人の子供に入ってもらい、
「私が帰ってくるまで我慢してマシュマロを食べなければ、倍の2個のマシュマロをあげる」
という約束をして外出をします。
合理的に考えれば、帰ってくるのを待って2個のマシュマロをもらう方がお得ですが、
ほとんどの子供は待つことなく1個のマシュマロを食べてしまったそうです。
2個もらえるという価値よりも、今確実に食べられる方を選んでしまう、
現在思考バイアスをまさに証明した行動となっています。
一見不合理に見えますが、目の前の利益を最優先すると考えれば、この行動は自然に起こったものと言えます。
小学生や中学生の時に、夏休みの宿題を夏休みの最終日まで残してしまい、
両親に手伝ってもらいながら何とか終わらせた、ということを経験している方もいるでしょう。
もちろん先に片付けてしまう優秀な子供もいますが、この宿題を残してしまうという心理も、
現在思考バイアスが大きく関わっています。
宿題を毎日少しずつでもやっていれば楽なことは誰でも理解していますが、学校に行かなくても良く、
自由に遊べる夏休みの楽しさの方が心理的に強くなり、宿題をせずに残してしまうことに繋がります。
大人になってからも、例えば高級なものを買うために貯金をしていたとしても目先に楽しいことがあると、
我慢できずに貯金の中からお金を使ってしまい、いつまで経っても希望のものを買う資金が貯まらない
という人がいますが、まさにこれも現在思考バイアスが影響しているモデルケースになります。
現在思考バイアスがかかってしまうと、未来の目標や出来事に対するハードルを自ら下げてしまうため、
優先順位がどんどん低くなってしまい、最終的にその目標さえも諦めてしまう可能性があります。
人には先延ばしをしてしまう心理があるということを自ら認識して、
行動・判断するときに意識することで改善することが必要です。