変わりたいと思いつつも、変わるのが怖いと感じる人間の心理はどのようなものなのでしょう

現状思考バイアスとは

人は現状から新しい何かに挑戦することに対して、抵抗を感じる傾向にあります。
もちろんチャレンジ精神をもって新たなことに取り組むことは重要ですが、体験したことのない未知の物事に対するバイアスは、誰もが持つ可能性があります。

偏りや偏見を意味するバイアスは、行動経済学や心理学に使われています。
現状志向バイアスもよく使われている言葉ですが、今よりも良い環境や条件になる可能性が高くても人はマイナスなイメージを持ち、現状のままで良いと考えることを指します。

 

 

変わりたいけど、現状を変えるのに躊躇することもある

 

 

未来に今よりも大きな喜びがあると分かっていても、目の前にある確実な喜びの方を優先するという心理が働く現状志向バイアスは、何故起こるのでしょうか。
現状志向バイアスは、行動経済学の権威として知られるダニエル・カーネマンによって提唱されています。
例えば、「今すぐ10万円が貰えるのと、1週間後には10万円+2000円が貰えるとしたらどちらを選びますか?」と質問されたとすると、合理的に普通に考えれば1週間待って10万円+2000円貰った方が明らかに得なので、そちらを選ぶはずです。

しかし全員がこちらを選ぶのではなく、今すぐ10万円貰える方を選ぶ人も必ず出てきます。
これは1週間という時間の経過があることから、今すぐという「現状」を選ぶ人が現れるのです。
古い経済学では、時間の経過によって人の判断は変わらないとされていましたが、近年考え方の中心となる行動経済学では、時間経過によって人の選択は変化すると提唱されるようになりました。
時間が経過することによって、その決めたことが変化するかもしれない、であれば安全で確実な現状を選ぼうと考える人がいても不思議ではありません。
これが、現状志向バイアスの考え方になります。

 

 

明らかに得だとわかっても選ばない人もいる

 

 

現状思考バイアスの著者、有名人について

現状志向バイアスは、人は必ず合理性を最大限に考えて行動するという定義が誤りであるということを、行動経済学の第一人者ダニエル・カーネマンによって実証された定義です。
それまでの経済学の考え方に疑問を持ち、行動経済学という新しい考え方を定着させたダニエル・カーネマンは、1934年にイスラエルで誕生しました。
第二次大戦後イギリス統治下のパレスチナに移住し、ヘブライ大で心理学を学んで心理学者・経済学者としての道を歩み始めます。
その後アメリカに移住し、カリフォルニア大学バークレー校で心理学の博士号を取得します。

 

 

https://swingroot.com/present-bias/

現在バイアスとは?行動経済学でわかる先延ばし癖のカラクリと防ぎ方/ビジネスのためのWeb活用術。

 

 

行動経済学における様々な理論を提唱したカーネマンですが、プロスペクト理論は後の心理学・行動経済学に大きな影響を与えました。
ヒューリスティクスとバイアスもカーネマンが提唱した代表的な法則ですが、現状志向バイアスもこの中で提唱した認知バイアスに含まれます。
行動経済学の研究・開拓の貢献が認められ、2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
ダニエル・カーネマンに関する著書は、2011年に『ダニエル・カーネマン 心理と経済を語る』、2012年に『ファスト&スロー』などがあります。
現状志向バイアスに関する著書としては、幸元康著『現状維持バイアスの突破方法』など多数存在します。

 

 

 

 

有名な事例

人には、現状に満足して新たな何かに挑戦したりすることを先延ばしする、という傾向があります。
合理性が高かったりプラス要素が仮にあっても、現状からの変化に抵抗を感じてしまう思考も存在します。
このような思考を現状維持・現状志向バイアスと、心理学・行動経済学で呼んでいます。
現状志向バイアスを経済学の専門書で読むと少し分かりにくい感じがすると思いますが、事例として身近な日常の話題で言えば、受験勉強やダイエットのチャレンジなどが分かりやすいと思います。

 

 

万年ダイエッターという人も多い

 

 

受験勉強では、その日の計画を立てて勉強を開始するのですが、その日どうしても観たいテレビ番組があったり友人からの誘いがあると、今日行動しなかった分を明日頑張ればいいと、自分でバイアスをかけてしまうことがあります。
ダイエットにチャレンジするときは、目標の日まで時間があるからと自分で理由をつけてダイエットをサボるようになり、結果的にダイエットに失敗することも、これに当てはまります。
この現状志向バイアスにはマイナスのイメージを持つ人も多いかもしれませんが、マーケティングではこれを活用したサービスも多く登場しています。

最も多く見られるのが、テレビショッピングや通販サイトなどで使われている返金保証のサービスです。
「購入後、商品に満足できなかった場合は、30日以内であればお使いになっていても全額返金保証致します。」という宣伝文句を見かけることもあることでしょう。
これは現状よりもリスクがなく利用できるという安心感が感じられ、顧客が購入に至るという可能性が高まります。
他にも、「本日お申込みいただければすぐに利用することが可能」などという例もあります。
化粧品のキャッチコピーに見られる「使ったらすぐに効果を実感」なども、マーケティングに活用した代表的な事例です。

 

 

キャッチコピーにインパクトがあると心を揺さぶられてしまう