ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学とは。

行動経済学とマーケティング

行動経済学は、2002年にダニエル・カーネマン氏が、2017年にリチャード・セイラー氏がいずれもノーベル経済学賞を受賞し、その度に考え方が見直されて注目を集めている学問です。
元々あった経済学に心理学の要素を取り入れることで、現実的に検証をする学問である、と考えられます。


1960年代に経済学に反する研究対象として始まりましたが、急速に研究が進展を見せたのが1990年代以降になり、2002年のカーネマン教授のノーベル経済学賞受賞で注目度は一気に向上しました。
経済学では、人間が合理的に行動することを前提にした理論として、現実からは多くの乖離が見られていました。
そこで人は常に合理的な行動をするのではなく、時に感情によって合理性を無視したような行動をとる心理学的な考えを経済学に追加して研究を進めた結果、より現実的な理論を導き出していると推察されます。
人間が非合理的な判断をする具体的な例としては、以下のようなケースがあります。

例えばアルバイトでも仕事でも良いのですが、依頼があってその報酬が2000円だったとします。
当日に報酬を受け取る場合はそのままの2000円ですが、1ヶ月後に受け取る場合にはプラス500円が加算され、2500円が受け取れるとします。
どちらが多いかデータを取ると、不思議なことに合理的でない当日に2000円を受け取る人の方が多い、という結果が得られます。
これは未来を信用するよりも、目先の現実を重視する人の考え方の表れであると思われます。
ここで挙げたような行動経済学は、マーケティングに活かすことで、より効果的であると言われています。
人間が合理性よりも感情を優先して非合理的な行動を選択するには、それなりの理由や傾向が推察されます。
この理由や傾向を行動経済学で研究することによって、企業や商店のマーケティング戦略に様々な形で応用していくことが可能かと思われます。
マーケティングの活用方法を学んでおきましょう。

マーケティングの活用方法

行動経済学をマーケティングに活用する効果・理論がいくつか存在します。

「プロスペクト理論」
これはマーケティング活用方法として、最も多く利用される理論です。
利益を確実に得られる状況にあるとき、人はリスクを極力回避して利益に繋がる行動をすると考えられます。
逆に損失が確実な状況では、損失を回避するためにリスクを恐れない行動をすると思われます。
これがプロスペクト理論の考え方です。
この理論をマーケティングに活用するのであれば、以下のようになると推察されます。
スーパーや量販店でよく見かける値引きのキャンペーン表示では、「通常価格○○円が50%オフキャンペーンで○○円」などと表示をすることで、値引き分だけ損失を回避していると思わせる効果が得られます。

「現状維持バイアス」 
リスクがあるかもしれない変化を恐れ、できる限り現状を維持したいと考える特性を、現状維持バイアスと呼んでいます。
変化を恐れ物事を次々に先送り(先延ばし)にしてしまった経験は、多くの人が少なからずしていると思います。
人気作家が締切ギリギリまで創作意欲が湧かないことも、現状維持バイアスの一つと考えられます。
この特性をマーケティングに活かすとすれば、この特性を逆手に考えることです。
例えば、特定のサービスや工事などで他社が新しいサービスを始め、料金が現状よりも少し高い金額だったとします。
ここに現状維持バイアスの特性を活かすと、その金額に20%くらい上乗せした価格設定でも、顧客が減少する可能性は低くなります。
現状維持バイアスの思考では新しい変化を嫌うため、少しくらい高くても現状と変わらないサービスを求めると考えられます。

マーケティングに活用できる学問。

マーケティングの活用事例

行動経済学の理論や効果をマーケティングに活用した具体的な事例を紹介します。
まずフレーミング効果ですが、表現方法や問題提起のやり方で判断の合理性を失う心理的効果のことを言います。
人は物事を理解・判断するときに、それぞれに対してフレーム(枠)を無意識に作り出しています。
自分が経験してきた知識や記憶がそのフレームとなり、客観的に本来の姿を見ることができなくなります。
固定観念と呼んだ方が分かりやすいかもしれません。
例えば、いつもと同じ辛さのカレーを提供されても、唐辛子が追加されたように赤くなっているだけで辛いと感じてしまうのは、「真っ赤なカレー=唐辛子が入っていて辛いカレー」という固定観念から生まれると推察されます。

フレーミング効果の活用事例ですが、「確率10%で10000円になるが、残り90%は外れで0円になるクジを100円で買いますか」と質問されるのがAとします。
「確率10%で9900円になるが、確率90%で100円損するカードゲームギャンブルをやりますか」と質問されるのがBです。
これをデータにすると、圧倒的にAを選ぶ人が多くなります。
質問の仕方が違うだけで内容は全く同じなのにこのような結果になるのは、フレームを作り出した時にAでは100円が費用、Bでは100円が損失と認識されるからです。
イメージとして損失がマイナスに感じるため、多くの人がAを選ぶということであり、如何に伝え方で状況が大きく変わるのかが分かると思われます。
マーケティング戦略においても損失をイメージさせる文言は控え、費用と感じさせる文言を選ぶことでプラスにシフトする可能性が高くなります。