GDP22兆円を失う大きな課題「事業承継」特集、経済への影響について~前編~

事業承継とは

一般的に企業で働く会社員は、定められた定年制度によって定年を迎えると会社を退職します。
その後は年金で生活をするか、再就職をするか、新たに自分で起業をするか、などから選択をすることになります。
一方で自営業や中小企業など自身が経営している方の場合は定年などがなく、基本的には永遠に働くこともできます。しかし永遠に働き続けることは難しく、どこかのタイミングで事業を後継者へ引き継ぐ必要があります。


事業承継とは、経営している事業を後継者に引き継ぐことを指す言葉です。
経営者の資産を引き継ぐこととは少し意味合いが異なり、会社の事業そのものを引き継ぐ内容であることが重要なポイントと考えられます。
引継ぎものの中には、経営者の個別の資産の他にも経営権・ブランド・信用情報・取引先・債務など、運営に必要な情報が全て含まれています。
様々なことに関して正しく承継を行うことから、個人での資産相続のように単純な進め方はできないことが想像できるでしょう。
今後、日本における大きな課題、事業承継について理解が必要です。

日本における事業承継について


海外では、個人で起業したベンチャー企業の経営者は事業が軌道に乗ると、早い段階で経営権を次世代に引き継ぐケースが多いですが、日本の個人事業主や中小企業の経営者は、自分の体力が続く限り経営権を手放すことがなく、経営者が高齢になり次世代への引き継ぎが遅い傾向が見られます。
しかし大企業の場合は経営者(代表取締役)一人に依存することを少なくするため、法制度や経営者が定期的に入れ替わることで事業の進め方が偏って滞ることもなく、比較的スムーズに代表者の交代が行われているかと思われます。

若手の希望者とのマッチングサービス等ソリューションも多い

しかし大多数の雇用を支える中小企業や個人事業の場合は、経営者のパーソナル・能力に大きく依存していることが多い傾向にあり、事業の承継に対して消極的な傾向が問題になります。
経営者のカリスマ性に頼る企業では、経営者の健康状態にトラブルが起きて事業運営の指示・判断が不可能になった場合に、社内は大きく混乱します。
そうならないためにも、早い段階で事業承継の計画を立案しておくことが必要と考えられます。


事業承継に失敗すると、それまでに積み重ねてきた企業としての信頼やブランド価値が大きく損なわれることになり、状況によっては事業そのものが成り立たなくなることもあります。 事業承継は、会社の存続に大きく関わる重要事項である、という認識が求められます。

経済への影響

中小企業の事業承継は、日本の経済にも大きく影響すると推察されます。
日本の経済を担うのは、世界中に事業を展開する誰もが知る大企業だけではありません。
日本国内には、世界に誇れる技術や知識を持った中小企業がたくさん存在するからです。
国内の市場を支えることも、個人経営者の店舗や中小企業の方々です。
中小企業庁が近年調査したところによると、70歳を超える自営業・中小企業の経営者は、約250万人いると言われています。


その約半数(約125万人)が、事業承継する後継者が決まっていないとされ、 もしこの大半が事業の存続を断念して廃業へと向かうと、日本の経済は大きく停滞する可能性が高くなり、中小企業・小規模事業者の事業承継問題を放置すると、廃業の急増により2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用と約22兆円の国内総生産(GDP)を失う可能性があることが経済産業省・中小企業庁の試算で発表されました。
地方では、特に中小企業や自営業が廃業することの影響が大きく、日常の生活にも深刻なダメージを与えることが容易に想像できます。

事業承継の流れ


事業承継を行う一連の流れの中には、資産・人・知的財産の3つが、重要な要素として考えられます。
まず人の承継についてですが、人というのは事業を運営する知識・ノウハウなどを持つ経営者としての権限を承継することになります。
しかし経営者としての権限やノウハウというものは、個人の資質にやはり大きく依存するものでもあり、この部分は大変難しい問題かと思われます。
続いて資産の承継についてですが、こちらは不動産・設備・機器などの物と、会社運営に必要な資金を引き継ぐことです。


株式会社の場合は、株の譲渡が事業承継には重要と考えられていますが、人の承継のみが行われて創業者が株式を一部保有し続ける場合が多いようです。
最後の知的財産の承継については、働く社員の技能・技術や経営のノウハウ、取引先や関係企業との関係(人脈)なども含まれると考えられます。
この知的財産こそが、それぞれの事業を存続する上で大変重要な課題になると思われます。

事業承継の問題点


事業承継には、いくつかの問題点があります。
特に個人事業や中小企業では事業承継が親族間で行われることが多く、経営者からすると兄弟や子供などの親族に事業を承継したいと思うのは、心情的にも当然と思われます。
資産の承継に関しても、親族の場合はスムーズに運ぶ可能性も高いと考えられます。


しかし親族というだけで事業承継を行うことには、少なからず抵抗を感じる方が多いのも事実、と推察できます。
経営者としての能力や資質が不足している方に事業が承継された場合には、会社の存亡に関わる大問題に発展することも大いに想像できるでしょう。
また親族以外の人(例えば従業員)に承継する場合には、引き継がれる方の資金が不足していたりすると、安定して事業の運営を続けることが困難になることも考えられます。
やはり事業承継に関しては、早い段階で綿密なプランを立てておくことが重要です。