経済学から見る人間の行動。
行動経済学って何
人間以外の動物は基本的に本能によって生きていますが、動物の中で唯一人間だけが本能をコントロールして、感情で行動することが可能であると思われます。
何故人間だけが感情をコントロールして生存しているかは専門家に任せるとして、人間には感情を持っているが故の計算できない行動があることについて考えてみたいと思います。
人間は、仕事や日常生活で合理的に行動することを基本的に考えて行動していますが、実際には全て合理的には行動しないということが経済学者の間で研究されています。
その研究を行動経済学と呼んでいます。
行動経済学とは、必ずしも人間が合理的な行動をするわけではないことに焦点を当て、過去の経済学で表すことのできなかった経済的な行動や社会現象について、人の行動を観察することで証明しようとする経済学です。
人が物事を判断して行動する際に心に現れる感情や直感について分析し、その行動メカニズムを明らかにしていく新しい学問と考えられています。
行動に着目している点から行動心理学にも通じるため、心理学者の間でも研究結果が注目されていると思われます。
行動経済学が研究される前の、ただの経済学と行動経済学には大きな違いがあります。
経済学では合理性を求める人間の考え方が全て、と判断して考えられていました。
つまり「合理性を求める=経済的行動では利益を重視して判断する」というように、結論づけています。
もちろん時間をかけて冷静に判断すれば損得のみで判断するのかもしれませんが、人間は感情で行動する生き物でもあるため、合理的ではない行動をすることもあると思われます。
経済学では、この感情で行動することを心理学の観点も含めて研究したのが行動経済学で、その考え方の違いは歴然としていると考えられます。
行動経済学の歴史
行動経済学は、当初主流となっていた経済学の考え方を否定する敵対的研究として誕生しましたが、研究結果や成果から行動経済学の方が現在は主流と考えられています。
20世紀末以降、アメリカの経済学は行動経済学に基づいていると思われます。
行動経済学の研究は、1950~1960年頃にハーバード・サイモンが研究し始めたのが最初、と言われています。
当時の経済学では、実際の人の行動よりも研究者が論理的に考えたものを経済学の指針にする傾向にあり、現実に人間が経済行動を研究することに注目して進められました。
しかし、この研究は数々の提案をしながら行われましたが、一般性から大きくかけ離れていたため普及はせず、後に第2世代と呼ばれる行動経済学にその考えが受け継がれることはありませんでした。
ただし人の経済行動と行動バイアスに影響を受ける、という人間の心理的な感情については活かされていると考えられます。
1990年代になって再び行動経済学の研究が進むようになりますが、この第2世代の研究では心理学的な観点をマクロ経済学と合体させ、経済行動と心理的な行動との共通点を見出す研究がされていると推察できます。
行動経済学では、男女の行動の違いについても深く研究がされていると思われます。
仕事の選び方や働き方を例に取ると、男性は競争によって報酬に差が出る成果報酬を好むのに対し、女性は安定的な固定報酬の働き方を選ぶ傾向が強い、と考えられています。
男性の方が他人との競争を好み、女性は競争を好まない傾向が、この結果からは推察されます。
ただし女性しかいないグループや場所では、男性以上に競争や敵対する傾向があるという研究結果が出ていますので、これに関しては身近で働いていると納得できる結果ではないか、と男性陣は想像できるでしょう。
行動経済学の有名人、有名な本
行動経済学を研究して世界に広めた有名人は何人もいますが、その中から共にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンとリチャード・セイラーを紹介します。
ダニエル・カーネマンは、行動経済学研究の創始者と言われる中の一人で、1990年代に人間の経験と記憶は矛盾する、という考えの認知バイアス研究の第一人者でした。
外科の検査を受けた時に、患者が感じた本来の痛みと検査後に想像する痛みには共通点がない、ということが実験の結果分かり、人の記憶というのはインパクトの強さで増幅され、これはポジティブなことでも同じであるという研究結果を残しています。
この記憶の矛盾が、人間の合理性を失い経済行動が合理的にならないことへ繋がっている、と考えられます。
そのことを広く知らしめたことが、後のノーベル賞の受賞に大きく繋がったと推察されます。
リチャード・セイラーは1945年生まれで、1980年代後半にそれまでの経済学の考え方に異論を唱える経済行動の具体的な例を、雑誌のコラムに掲載して注目を集めました。
人間を感情のない合理的なロボットのように捕らえる従来の経済学では本来の経済行動は証明できないとして、後に戦術のダニエル・カーネマンとも共同研究を重ね、現在の行動経済学の基礎を作った方として今も経済界では尊敬される人物であると想像されます。
行動経済学を知る有名な本を2冊紹介します。
「行動経済学の逆襲 著者 リチャード・セイラー」
行動経済学の祖が、行動経済学の誕生から異端者として糾弾された波乱万丈の研究者としての生き様と行動経済学について、ユーモアを交えながら書かれています。
初心者でも楽しく読むことができるかと思われます。
「知識ゼロからの行動経済学入門 川西諭」
こちらは行動経済学を、もっと身近な行動から理解することができると思います。
行動経済学の知識が全くない人でも、その行動の心理について分かりやすく書かれています。